5.「施設ケア」と「在宅ケア」を組み合わせる

人生の最期をどこで迎えるか、大きくは2つ。病院か家かである。これをもう少し専門的な言葉を使うならば、「施設ケア(病院・長期療養施設・老人ホームなど)」か、「在宅ケア(家庭)」か、ということになる。厚労省が1990年以降に高齢化社会に向けて開始したゴールドプランや医療保険制度の規制緩和がなされ自宅でできる治療法が増えたこと(インシュリンの投与や在宅酸素療法など)で在宅ケアの選択肢は広がっている。

 

しかし、在宅ケアを可能にするにはそれなりの環境が必要である。

 

1つ目の条件は患者本人と家族の意思。本人も家族も在宅ケアを望む場合はスムースだ。しかし、本人は在宅ケアを希望しても家族がそれを望まないことがある。家族が遠くにいて同居できなかったり、同居はできても積極的にはしたくない、または同居は視野に入れているが介護や看護ができるのか自信がないということもある。

 

逆に、家族は在宅ケアを望んでも本人が望まないこともあるだろう。

 

(本著では本人もしくは家族が在宅ケアを望むケースをメインに言及していくことをご了承いただきたい。もちろん一人暮らしでも在宅ケアは可能ではある)。

 

2つ目の条件は、居住する地域に訪問介護、訪問看護の体制が整っていること。在宅ケアをするには介護サービス、医師や看護師の医療サービスが受けられる体制が必要である。というのも在宅ケアですべてができるわけではない。在宅ケアを中心にしながら施設ケアを組み合わせることが必要なことも十分起こりうる。先に紹介した「ときどき入院、ほぼ在宅」という言葉それを表している。

 

「訪問介護」とはヘルパーが訪問して介護・家事(入浴、給食、日常動作訓練など)の援助、相談にのることである。一般的に「デイサービス」と呼ばれるが、これには本人が社会福祉施設などに出向いてリハビリテーションを行う「通所介護」も含まれる。通所をすることは本人の社会的孤立を防いだり家族の負担軽減にもなる。家族が一時的に旅行などで世話ができなくなるときや、在宅ケアの効果を高めるために利用する「ショート・ステイ」もある。

 

それに対して「訪問看護」は看護師や理学療法士などが訪問して看護やリハビリの視点から病状の観察、リハビリ、指導を行うものである。末期のがん患者などが自宅で最期を過ごすことを希望した場合に行う在宅ケアを「在宅ターミナルケア」と呼ぶが、がん患者数の増加傾向は変わらないので今後、訪問看護のニーズが増えていくことが予想される。ターミナルケアの場合、本人から痛みの訴求、急変など家族だけでは対応ができないこともあり負担も多大なものになる。それに対応するために「24時間対応型在宅ケア」を実施している施設もある。これには24時間定期巡回型、随時対応型がある。

 

また本人が通所して身体機能の維持や回復、日常生活の回復、そして認知機能の改善を促す目的で「デイケア」という医療サービスがある。先のデイサービスとの違いは医師が介在するかどうかである。医師の判断・指導の下に理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語療法士(ST)が通所先でグループにてケアを行う。「通所リハビリテーション」と呼ばれることもある。デイケアを利用することで生活リズムを維持することができ生活管理能力を保つことができたり、利用者同士の交流により自主性や協調性を培うことができたり、リクリエーションや簡単な手作業をすることで日常の作業能力を維持、向上が見込まれる。

 

そのサービス内容によって、「訪問介護」「デイサービス」は介護保険、「訪問看護」「デイケア」は健康保険から支払われる。注意が必要なのは介護保険、健康保険のいずれも保険の範囲内で受けられるサービスが決められているということだ。逆に言えばサービス事業所側は「介護報酬」「診療報酬」として受け取れるサービスは決まっているということである。その範囲を超えたサービスについては「保険外サービス料金」として別途サービス料金を定めることができる。先に紹介した「24時間定期巡回型、随時対応型介護・看護」などはそれにあたる。デイサービスでの送迎や入浴介助、食事などについてはオプションとなることがあるので利用する際は事前に確認が必要だ。またデイケアでも個別のリハビリは別料金がかかる。

 

このように「在宅ケア」を中心にしながら「施設ケア」を組み合わせていくことにより、本人の身体的な機能や社会的なかかわりを維持しながら、家族にとっても負担を軽減していくことが望ましい。家族の年齢とともに家庭にはその時代の家族の過ごし方がある。赤ちゃんがいる家庭には赤ちゃんに合わせた生活があり、高齢者がいる家族には高齢者に合わせたその家族の過ごし方があるということだ。ただ、赤ちゃんはだんだんできることが増えていくのに対し、高齢者はできることが減っていく。だからうっかりしていると高齢者の変化に気づかないまま家族は同じ生活をし続けてしまうことがある。

 

―自宅で死ぬということ― 著:小阿羅 虎坊(こあら・こぼ)

 ※「自宅で死ぬということ」は第2・4金曜日に更新します。
次回は7月26日にお届けしますのでお楽しみに。