10.良い訪問看護ステーションの選び方

私が父親を看取ったとき(2014年)、在宅ケアをするという選択は私にはなかった。まず在宅ケア自体をよく理解していなかった。特定の病気の人だけが選択できるケアだと思っていた。年をとって脳梗塞で一度入院してしまったのだから、そのまま病院から帰って来れなくなっても仕方がないものだと思っていたのだ。知識がないのだから当然選択肢には入らない。また、在宅ケアをする環境もなかった。在宅ケアを勧めてくれる人もいなかったし、近くに訪問看護ステーションもなかった。いや、実際にはあったのかもしれないが、こちらの意識がなかったから目に入らなかったのだろう。

 

ところが父親が亡くなってから、仕事がらみで訪問看護ステーションを運営するKさんに話を聞く機会があった。私が自身の体験を話すと「あら、それなら訪問看護で十分対応できたと思いますよ」という反応だった。え?と私は驚いた。当時の状況、つまり父親は母親と二人暮らしであり、息子である私や兄は離れて暮らしていたことなどを話しても「大丈夫ですよ。できましたよ」とおっしゃる。そこから私の在宅ケアへの意識が変わっていった。また時代もそれから加速度を上げて変わりつつある。

 

在宅ケアについて関心をもった私はその後、いろんな場面で訪問看護ステーションの運営者から話を聞いた。ところが私の父親のケースを話すと、すべての方がKさんのように「大丈夫ですよ」とは言うわけではないことに気がついた。なぜだろうか。同じ訪問看護ステーションでもその運営者によってできることが違うのだ。それは訪問看護ステーションの経営方針や運営者の思いの違いによるところも大きい。

先述のKさんはもともと病院勤務をしながら自分のできる看護に違和感をもっていた。一人の患者さんと寄り添う看護をしたいと思っていたKさんだったが、病院勤務をしていると突然、受け持ち患者の担当が変わったり、理由も教えてもらえぬまま患者が転院をしたり、もっと言えば亡くなっていたりということがあった。Kさん自身が思い描いていたのは「患者さんを最期まで看取る看護」だと気づき、病院を辞めて訪問看護ステーションを立ち上げたのだ。このように訪問看護ステーションはその運営者のスタンスによって行われる看護に違いがあると思っておいたほうがよい。

 

大きく2つのタイプに分けられる。1つは「指示待ち型」。訪問看護ステーションは医師の治療方針に沿って看護が行われるのだが、それは医師に言われるままということではない。看護師の判断が現場でなされてこそ訪問看護である。医師の治療方針を看護師がしっかり咀嚼して看護に活かせているかどうかがたいせつだ。

 

また、ケアマネジャーの存在にも目を向けたい。ケアマネジャーとは患者の状態を把握して「ケアプラン(介護計画書)」を立てる人である。このケアプランによって患者(利用者)が受けられる介護サービスの種類、内容、利用回数、時間、利用料金などが決められる。そのためにケアマネジャーは月に一度、患者宅を訪問して患者の状況を把握して評価(アセスメント)をする。このケアマネジャーに看護の視点があるかどうかが非常に大きい。ちなみにケアマネジャーは保険・医療・福祉の国家資格の保持、生活援助職、介護施設での実務経験5年以上がありケアマネ試験に合格して実務研修を経て登録することが条件である。なので同じケアマネジャーといってもそれまでの経験はそれぞれである。看護師の実務経験をもったケアマネジャーが「看護の視点」があることは想像にたやすい。もちろん肝心の看護師がケアマネジャーの指示がないと動けないというのでは困る。

 

2つめは「提案型もしくは課題解決型」である。現場で看護師が判断をしながら患者対応するのが訪問看護である。病院であれば、なにかあったときすぐに医師や療法士を呼んで対応することができる。しかし訪問看護は基本的にはその場に看護師が患者の状況や環境を把握して対応をしなければならない。「いったん戻って医師や運営者と相談してから決めます」では訪問看護をしているメリットが薄らいでしまう。さらにその状況をきちんとケアマネジャーに報告することができる看護師かどうかが、患者にとってより良いケアプランを立ててもらえることにつながる。現場で看護師が気づいた課題に対して、その場での改善を提案したり、解決できる訪問看護師がいれば、病院以上のスピードで手が打たれる。

 

ではどうすれば「良い訪問看護ステーション」見つけられるのか。口コミは重要である。近くに利用者がいたら評判を聞いてみることだ。いちばん良いのは事前に訪問看護ステーションを訪問して管理者に会ってみることだろう。そして自由にどんな訪問看護を望むか、どうしてほしいのかを話してみることだ。良い訪問看護ステーションならば相談に対して具体的に「その場合はこんなことができる」とか「このような対応ではどうか」といった回答をしてくれるはずだ。できない理由を並べたり、事前相談ができないような訪問看護ステーションであれば避けたほうがよいのではないかと思う。

 

-自宅で死ぬということ 著:小阿羅 虎坊(こあら・こぼ)

※「自宅で死ぬということ」は第2・4金曜日に更新します。
次回は10月11日にお届けしますのでお楽しみに。